臨床研究の論文は、コツを掴めば15分程度で内容を理解し、後から見直せるメモまで残すことができます。コツを知っていれば、初心者でも、すぐに読めるようになります。
抄読会で論文を読んで準備をしないといけない、自分の診療や研究で必要な論文をいくつも読まないといけない、そういう時に、いつも重い腰を上げて論文を読んでいる人も多いかと思います。抄読会の準備となれば、「1週間はかかるな、大変だな」と思う人も多いでしょう。
本記事では、臨床研究の論文の構造を知ることで、短時間で内容を理解して、メモを残すやり方をご紹介します。
はじめに
私が医師5年目だった時のある火曜日、臨床業務に追われていた18時ごろに上司から電話がありました。
「明日の朝のカンファで論文1つでいいので抄読会やってもらえる?」
さすがに徹夜を覚悟しました。
切羽詰まって論文を読み始めた時に、ふとこれからご紹介する方法に気づいて、それから2時間で抄読会用のスライドが完成し、徹夜を免れることができました。
論文や英語の構造を理解することで、全体像と重要なポイントをおさえることができ、論文を読むのに費やせる時間に応じてどこまで詳しく読んでいくかを決めることができる、ということに気づいたのです。
本記事では、実際に読み始める前に、理解しておくべき4つのポイントを「基礎編」として最初にご紹介します。
次に、臨床研究論文をどのように読んでいくか、「実践編」で、実際の論文を使って試してみましょう。
論文が読めるようになったら、次のステップとして何を考えていくのか、について、簡単に「応用編」でお伝えします。
基礎編:構造を理解する
ステップ1:臨床研究の研究的疑問について理解する
臨床研究で一番重要なものは何でしょうか。
日常の臨床で患者さんに向き合っていると、
「この患者さんの状況では、どの治療が一番良い選択なのか」
などと、さまざまな疑問が湧いてきます。
ガイドラインを参照すれば、標準治療について書いてあり、どの治療が推奨されるかは分かります。これを元に治療を行なっていくのがEBMです。
けれども、「みんなにガイドラインの治療をするので本当に良いのか」「〇〇の条件がある場合はどうなのか」、「〇〇がある時は標準治療が効きづらい印象がある」など、そこから臨床的疑問が浮かんできます(Clinical Question)。
そこでさまざまな文献を調べ、同じような疑問にぶつかって解決した過去の先生の事例や研究を確認し、臨床的疑問を解決していきます。
まだ誰も解決していなければ、では「術後に治療Aをすることで、再発率が減るのではないか」などと研究的疑問を立て、研究をすることで解決することができるかもしれません。
このように多くの研究は、未解決な臨床的疑問から、研究的疑問に昇華して、研究デザインを作るところから出発しています。
ステップ2:研究デザインについて理解する
研究デザインは、研究的疑問を解決できる形になっていないといけません。
一つ例を出すならば、今までの治療法と、新しい治療法を比較します。
「Aの特徴のある患者に対して、現在は術後に治療Cを行なっているが、術後に治療Xをすることで、より再発率が減るのではないか」
という研究的疑問があった場合、新しい治療である治療X(Intervention)と、今までの治療法である治療C(Control)を比較します。
この時にどんな人を対象にして研究するかは、Aの特徴のある患者(Patients)が対象、となります。
どんな項目で評価するかについては、術後の再発率(Outcome)となるでしょう。3年再発率とするか、5年再発率とするか、研究期間や疾患の特徴によっても変わってくるでしょう。
このように、対象(Patients)、新しい治療(Intervention)、現在の治療(Control)、評価項目(Outcome)を決めることで、研究デザインが決まります。これを把握していれば、どんな研究なのかも良く分かります。
PICOが大事とよく言われますね。
ステップ3:英文の構造を理解する
日本語の文章のお手本として、「天声人語」が挙げられることが時々あります。
朝日新聞1面のコラムで、約600字の文章です。時事問題を扱い、古典の引用なども交えた知的な文章の代表とも言われています。
天声人語を読んでみると分かりますが、書き出しの文章から、必ずしも最後の結末が予想できないことが多々あります。
一般的に日本語は、「結論が最後」、「論理の流れは起承転結」、「話をふくらませてからまとめる」、という特徴があるのに対して、英語は「結論が先」「論理の流れは、結論→理由→例」「まず主張し、それを支える根拠を展開」という構成となっています。
TOEFL、IELTSなどで英語の文章を書く勉強をしたことがある方は以下のような「英文の構造を理解する」ポイントを勉強したことと思います。
- 導入→本文→結論の3部構成で書く
- 言いたいことは、1つの段落に1つ
- 段落の主題(トピック)は通常、段落の最初に提示する
「段落作成の基本的なルールは、1つの段落に1つのアイデアを保持することです。新しいアイデアに移行し始めた場合、それは新しい段落に属します。」
出典:Purdue Online Writing Lab (OWL)
研究論文において、IntroductionとDiscussionの部分は、上記の英文の構造を理解することで読みやすくなります。
4 論文の構造を理解する
論文の構造はシンプルです。
タイトルとアブストラクトで、中身が簡単に把握できるように要約されています。
本文は基本的に以下の4つの構成となっています。
- 背景(Introduction)
- 方法(Materials and Methods)
- 結果(Results)
- 考察(Discussion)
結論(Conclusion)の項目が別途設けられていることもありますが、考察の最後に付け加えることも多く見られます。
実践編:実際に臨床研究論文を読んでみよう
応用編:一つの論文を読んだ先に
これで一つの論文を読むことができました。
自分の興味のある分野について、複数論文を読んでいると、その分野で分かっていることとまだ分かっていないことがはっきりしてきます。何が分かっているかを明確にすることで、実臨床でどのようにしていくのが良いか、どんな選択肢があるのか、見えてきます。
まだ分かっていないところについては、これからのClinical Questionということになりますので、これからの自分の研究テーマにすると良いでしょう。
また、今回紹介した論文の読み方は、自分の研究にも使えます。
臨床研究の構造が理解できると、自分の学会発表や論文作成の際にも同じようにメモを作ることで、その研究デザインや内容をを整理することができます。
いわば、自分が行う研究の設計図を作ることができるのです。
そうすることで、この研究を行う意義、何を示したいのか、そういった軸がブレることなく、分かりやすく研究について伝えることができます。
ぜひ使ってみてください。
おまけ:書類スキャンに便利なツール「ScanSnap iX500」
アナログ好きなので、普段紙に書くことが多いのですが、書いたものが散らばると面倒です。
そのため、ほとんどのメモはスキャンをしてPFD化し、タイトルに日付けと内容を書いて保存しています。
ScanSnap iX500は、スキャンスピードが早く、一度に何十枚もまとめてスキャンができるため、重宝しています。
以前は3万円程度でしたがだいぶ値上がりしています。中古では1万円台のものも多く出品されていますので、探してみるといいでしょう。
さいごに
要点を掴んで読めるようになりましたか?
簡単に読めるようになったら、継続して読んでいくことが大切です。
もちろんこれは一つのやり方ですので、いろいろ学んで試行錯誤して、自分の読み方を見つけていってください。
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